旅と健康の科学-次代のヘルスケア産業の創造

ウェルネス&スパツーリズム

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ウェルネスツーリズム、スパツーリズム

琉球大学観光産業科学部 教授 荒川 雅志

日本と世界のヘルスツーリズム

日本では近年、ニューツーリズムのひとつにヘルスツーリズムが掲げられ、地域活性や産業振興の新しい切り口として注目されています。健康をテーマとした観光振興とまちづくりの一環などに、温泉、海、森林に代表される地域の豊かな自然資源を健康資源として利活用した健康観光メニューの開発が行われています。健康を求める社会背景や、旅行者ニーズ多様化、新しい観光需要とともに、ホスト住民が期待する地域活性観光まちづくりの新たな切り口として登場した日本のヘルスツーリズムは、海外での認識とはやや異質のものであり、日本発のヘルスツーリズムといえるでしょう。各種メディアにも取り上げられるなど、“新しい観光”としてのヘルスツーリズムの認知度は徐々に高まりつつありますが、海外におけるヘルスツーリズムと比べると、果たしてどうでしょうか。

海外ヘルスツーリズムのタイプ分類

図.1 海外ヘルスツーリズムのタイプ分類
Melanie Smith, Laszio Puczko (2009)
“Health and Wellness Tourism”
Butterworth-Heinemann

国連世界観光機関(UNWTO)にみられるヘルスツーリズムの定義では、「健康維持に関する養生法、エクササイズや食事管理、各種療法、医療サービスを通して、肉体的精神的に良好な状態に改善することを主要な目的としたリゾートデスティネーションへの転地やヘルススパ旅行」(筆者訳)とされ、その対象はメディカルツーリズムの要素を一部包含しつつ、より広義の健康概念としてウェルビーイング(Well-being)、精神的癒しの世界までと広範にわたっています。また定義に登場するように、海外ではスパツーリズムとヘルスツーリズムは同義とされていることが多いようです。Melanie Sら(2009)によるヘルス&ウェルネスツーリズムのタイプ分類では、ヘルスツーリズムを提供する施設の中心にスパ(SPA)施設が明確に位置づけられています(図.1)。

スパの定義、ウェルネスの世界的動向

スパとは、国際スパ協会(ISPA)によると、「心、身体、魂の再生を促進するための様々なプロフェッショナルサービスを通じてトータルな心身の調和に専念する施設」(Spas are entities devoted to enhancing overall wellbeing through a variety of professional services that encourage the renewal of mind, body and spirit.)と定義されています。日本では日本スパ振興協会(NSPA)の定義によると「美と健康の維持・回復・増進を目的として、温浴・水浴をベースに、くつろぎと癒しの環境と様々な施術や療法などを総合的に提供する施設」とされています。具体的要素には①ホスピタリティ・マインドに基づく接客サービス、②浴槽を有し水を利用したプログラムの実施、専用のスペースでの施術・プログラムの実施、③施術に関する専門の教育を受けたスタッフが常駐することが基本条件に挙げられています(日本スパ振興協会)。こうした施設やサービスが提供される場への日常生活圏を離れた移動行動がスパツーリズムであり、スパの分類によれば「滞在型スパ」に該当しますが、とりわけ「デスティネーションスパ」という、トータルに健康な状態を目指すためにリゾートや保養地に滞在する目的志向型のスパが、現代ヘルスツーリズムには最も馴染みやすいと考えられます。

ロハス・カルチュラルクリエイティブ

増加する新しい価値観の人口層 Paul H. Ray, Sherry Ruth Anderson (2000) “The Cultural Creatives” New York: Harmony Books

Wolfgang Nら(2004)によると、余暇活動の時間において、治療といった医療色の強いものから健康増進、リラクゼーション、食事(養生法)、運動、美容などで構成したツーリズムをウェルネスツーリズムといい、さらにウェルネスツーリズムのほぼ半数(47%)はスパツーリズムであるという統計が報告されています(Global Spa & Wellness Summit 2013)。こうしたウェルネスツーリズム市場は2012年時点で全世界で4,390億ドルであったものが、2017年には6,780億ドルと約1.5倍に成長するとの予測もなされています。こうした背景には世界中で増加する新しい人口層の存在が挙がられます。Paul H Rayら(2000)は、全米15万人を対象に15年間追跡した価値観に関する大規模な調査によって、スロー(ライフ)、エコ、オーガニック、スピリチュアルといったサステナビリティ(持続可能性)思考と行動実践の両立を志向する新しい人口層の存在の台頭を明らかにしてきました。先進諸国を中心に、いわゆるロハス(LOHAS:lifestyles of health and sustainability)に象徴される環境や健康に配慮した新しい価値観に基づいた消費行動、投資行動は時代のトレンドになっています。時代のニーズを満たす先に「ウェルネスツーリズム」「スパツーリズム」は位置づけられているようです。

海外のヘルスツーリズム事例~健康を手に入れる旅~

このような視点で海外に目を向ければ、代表的事例として紹介したいウェルネスデスティネーション・リゾートが近隣のアジアに存在しています。タイ国首都バンコクの郊外ホアヒンにある、“安寧の隠れ家”を意味するチバソム(Chiva-Som International Health Resort Hotel)は、心、体、精神の調和を目指し、現代医療と自然療法、相補代替医療とを融合させた、世界初のヘルス・リゾートとして知られています。朝日を浴びて生体リズムを整えるヨガ呼吸法やストレッチからチバソムの一日は静かに始まります。フレッシュジュースや盛り沢山の野菜、薬草を取り入れた朝食へ続き、初日のヘルスコンサルテーションで得た個人推奨メニューに基づき、健康と美の充実したプログラムで一日が構成されています。ここでは自身の健康に真摯に向き合うために、最低でも3泊以上の滞在が求められます。10泊滞在が平均であり、2週間以上の滞在者も普通にみられます。
チバソムには、健康の価値を知るセレブ達、目的意識の高いゲストが世界中から訪れるようになりました。健康増進、コンディショニングのスペシャリスト人材による100を超える充実したウェルネスメニューに直に触れ、健康効果を実感し、その実体験を帰宅後の自身のライフスタイル処方箋として活かすことができます。チバソムでの経験はPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)に蓄積され、再訪時には過去の自分と比較でき、継続してプログラムを行うことが可能な仕組みです。西洋と東洋、古きと新しき知恵が融合し、また再びここに、心身のリセットに帰ってくることを強力にうながすヘルスツーリズムとして大いに参考になるものです。
写真典拠:Chiva-Som International Health Resort http://www.chivasom.com/

チバソム(Chiva-Som International Health Resort Hotel)

「日常の延長」にあるウェルネスツーリズム、ヘルスツーリズム

我が国でも近年、スパを提供する宿泊施設は増加の一途を辿り、その中で温泉旅館がスパホテルとして衣替えするケースも多く、日本式のスパ・サービスとしてヘルスツーリズムの中核を担うことが考えられます。温泉、海、森林に代表される世界に冠たる四季折々の自然に育まれ、ユネスコ無形文化遺産にも登録された伝統的な食文化に支えられ、世界一の長寿を達成した統計的事実は大きな強みです。地域にはこの健康長寿ならしめた資源が溢れており、地域ならではの資源を健康資源として再構成し、来訪者、世界中の人々を健康サービスでもてなす観光は、日本からこそ発信すべき次代の観光であり次代の価値提案です。物質的豊かさから心の豊かさ、人生の豊かさに価値がシフトし、健康は人生を豊かにする「資本」であることに気づくきっかけを一番のおみやげとしていただく。そのような存在に日本はなりたいものです。

ウェルネスやウェルビーイングという言葉は、輝くように生き生きしている状態、生きがい、生活の質(QOL)を高める生き方とされ、健康の定義をさらに積極的に解釈し、広義にそして多面的に理解しています。旅は非日常であるというのは観光学分野からの解釈ですが、健康は日常そのものであり、健康に気づきリセットを志向する旅は、「日常の延長である」という新たな視点をここに提案したいと思います。すなわち、旅は人々の人生に組み込まれ、人生の大事な一部となりそして不可欠なものになるのです。
人々のライフスタイル、人生のなかに定期的な健康旅行が組み込まれること、旅先で心と身体のバランス調整を図り、豊かで創造的な人生のアクセントとなるのがウェルネスツーリズム、ヘルスツーリズムでありましょう。

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