かごしまタラソニュース(No.17発行)の特集記事“健康・長寿・観光タラソ環境生かせ”をテーマとした海洋療法専門家の座談会記事を紹介します。

荒川雅志氏
琉球大学観光産業科学部観光科学科 学科長
観光科学研究科ヘルスツーリズム研究分野教授。健康と観光の融合をテーマに研究、実践多数
海洋療法のエビデンス、スパ(SPA)のエビデンス基盤構築プロジェクト実施
文科省科研費基盤研究C「ヘルスツーリズムの基盤構築」研究代表者

―沖縄、奄美地域の海洋環境―
よく海水の成分比が妊娠中の羊水と酷似しているといわれるように、海と人との関係は生命誕生の起源にも由来するものであります。海洋環境下での無条件の安らぎ、癒し。その根本にあるのは母なる体内回帰であるという説を支持しています。図らずとも海が人体に好影響を及ぼすことは古代より「経験知」として存在し、それを医学の祖であるヒポクラテスは「経験科学」に昇華し、治療や健康増進に活かしたわけです。そうしたなか海の直接利用に適する温暖で清浄な海というものは治癒効果を最大限引き出すうえで重要な条件であります。その点、我が国においては沖縄・奄美の亜熱帯海洋性気候の海洋環境は大きな優位性があると考えています。
わたしどもの研究室では、健康と観光の融合をテーマとした実践研究を、地域、企業、行政との連携、多業種・多職種連携で取り組んでいます。その中で主要な研究テーマのひとつにタラソテラピー(海洋療法)があります。沖縄にある海洋療法施設や海水温浴施設併設型リゾートホテルと共同研究を締結し、フィールド実践型の研究開発をおこなっています。現在、世界中でおこなわれている海洋療法の文献的研究(システマティックレビュー)、およびデータベース化を進めること、こうしたエビデンスを根拠に、海洋療法を軸とした「海洋健康増進」の可能性を研究しています。
タラソの活用は、健康をテーマとしたヘルスツーリズムの一環としても期待されています。ヘルスツーリズムとは、地域の健康資源を活かして地域活性、地域づくり、観光振興が期待される新しい観光形態(ニューツーリズム)のひとつです。我々が取り組んできた海洋療法の基礎研究を学術面としての発信だけでなく、一般の方々にも分かりやすく理解してもらえるための工夫や、観光誘客に結びつくモデル事業を企業や県、関係自治体とタイアップして実施していく予定です。一方、世界に通用する、世界に発信できる『アジア海洋療法研究開発センタ-拠点』を形成する構想を練っています。近い時期に海と健康に関する海外招聘者を交えた国際シンポジウムの企画も挙がっています。
タラソの事業面としては、タラソ施設単独の経営としては難しい面があり、ホテル併設型、病院施設附属型が主流です。またタラソ先進国フランスでは海洋療法に一部保険が適用されるなど、医療という安定価値として担保されるケースがありますが、日本ではそれは望めません。一方、海を健康・医療に生かす代替相補医療、自然療法としての潜在力と可能性に価値を見出す顧客層は確実に増えてきています。健康を多面的に包含した「美」というキーワードに広げたマーケティングや商品造成、宿泊、旅行業を超えた異業種連携によるアイデア創出も必要になってくるのではと思います。
似たような海洋環境を有する鹿児島と沖縄にとっては、それぞれ単独ではなく、海洋療法や海洋資源を活かした健康観光のメッカとなるべく共同すべき点があると感じています。鹿児島と沖縄の県境は、観光客にとってあまり意味を成しません。ましてやアジアや世界中からの誘客を目指すには県の枠を超えた広域連携は必須であり、結果、新たな商品造成の可能性を産み出し、顧客ニーズの多様化、グローバル化による競争激化にも耐えうる商品開発に繋がります。「島嶼」「海洋」を共通テーマに、島々の多様な自然を活かした滞在型観光モデル、海浜環境でのウォーキング(ビーチウォーク、サンドウォーク)や海岸ヨガ、ビーチ座観等々、お互いの創意工夫で開発したプログラムは共有でき、世に新たな価値提案ができるのではと考えています。

タラソの潜在力~海を治療に用いてきた人類の歴史的経緯 奄美・沖縄の南西諸島、亜熱帯海洋性環境を日本および
アジアのタラソテラピー拠点に