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沖縄健康長寿ダイエットプログラム

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沖縄長寿者のライフスタイル―沖縄新100歳者研究から

(Okinawa New Centenarians Health Study: ONCHS)
荒川 雅志  Masashi ARAKAWA, Ph.D.

津波蒲戸さん100歳

津波蒲戸さん109歳

我が国の将来人口予測は後期高齢者や85歳以上の超高齢者の増加率が最も大きく、とりわけ百歳以上の推移では今後も急速な増加が見込まれています。これは超高齢者層が特別な集団でなくなるとともに、従来の超高齢者観を大きく転換した新たなケアの枠組み構築が必要であることを示唆しています。

長寿の象徴たる存在といえる100歳者は文字通り「一世紀を生きる人々=“センティナリアン”(Centenarians)」と呼ばれています。これまで超高齢者研究、百歳者研究では生物学的側面の探索が中心を占め、臨床での少数症例としての報告が多く、十分なサンプルサイズを背景とする疫学研究は国際的にみても多くはありません。

ウェルネス研究プラットホームではその前身時代より、沖縄県の受託研究による新百歳者健康疫学調査の実施・解析を10年近く担当し、沖縄の100歳者延べ2,000名を超える世界的規模のデータ収集をおこなってきました(沖縄新100歳者健康疫学スタディ:ONCHS)。

これまで蓄積したデータは、

1)生活習慣関連因子として主観的健康観、循環器系疾患既往、認知機能障害、現病歴、転倒・骨折既往、歯科状況、食習慣、食嗜好、食物摂取頻度、日常生活機能(ADL・IADL)、社会活動性・役割、生きがい・満足感(QOL)、職業歴、健康行動、飲酒歴、喫煙歴、睡眠習慣、睡眠障害、身体活動量など
2)遺伝的背景因子として両親の主な既往、両親の死亡年齢、兄弟姉妹の有無・年齢
3)社会経済的因子として現役時の収入、介護保険制度利用状況、介護者の健康

などを構造化された質問紙を用い、訪問による悉皆調査を実施してきました。毎年のデータを統合分析により解析した結果、高血圧既往と脳卒中の正の関連が超高齢者にも認められることを国際学術誌で報告しています(Arakawa M 2005)。

沖縄の長寿の諸要因

健康長寿を支える要因を総括すると、亜熱帯海洋性気候に属し、年間を通し温暖であるなど地理的優位性、地域固有の食材、独特の食文化、伝統的風土の差異が顕著であることが挙げられます。沖縄長寿者に特徴的なライフスタイルは以下にまとめられます。

  • 食生活・食文化
    医食同源、薬食同源の思想
    伝統的調理法(ゆでこぼし、鰹だしによる低塩分化)
  • 身体活動・運動
    生涯現役意識(仕事の引退年齢:過半数が70歳以降)
    運動習慣(温暖な気候で冬場の活動量が落ちない)
    社会活動の高さ(老人クラブ・地域行事の参加率)
  • 休養・睡眠
    昼寝習慣(日本で唯一シエスタ文化)
    良質の睡眠(東京と比べ睡眠障害有症率が低い)
  • 社会関係資本
    ソーシャルサポート(精神的支え)
    模合文化(ユイマール:相互扶助)

長寿の要因はこれまで世界中の研究者が探究してきており、「遺伝」など先天的要因、「社会環境」や「生活習慣」などの後天的要因との「マルチプルファクター(複合要因)」によるものと考えられています。 長寿は遺伝だとはよく聞くところですが、その寄与割合は後天的な社会環境要因、生活習慣要因よりも低く、居住国の経済レベル、衛生状態の改善、乳幼児死亡率の改善などの医療レベル、保健福祉サービスの向上などが長寿化に大きく貢献してきました。

長寿をもたらすライフスタイルも多要因であること、どれかひとつが重要なのではなく、どれもがバランスよく備わっていることが重要であることは「桶の理論」(Barrel Theory)に例えられます(図1)。三大生活習慣病(悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患)の予防に寄与する個人の生活習慣因子には、喫煙、飲酒、運動、睡眠、そして栄養・食生活が挙げられています。こうした生活習慣は個人に選択が委ねられ、また個人の意思で変えていけるものです。長寿の鍵は、まずはなにより自分自身が握っているものといえるでしょう。
図1桶の理論

高齢者と睡眠

高齢者では睡眠障害が高率に認められ、その背景因子として加齢など生理的変化に加え疾患や身体症状が憎悪因子であることは知られています。我が国では脳卒中、心筋梗塞および循環器疾患最大のリスクファクターである高血圧が増加し、これら死因の上位を占める循環器系疾患と睡眠障害との有意な関連はいくつか報告がある一方、そのほとんどは80歳未満の高齢者から導き出されたエビデンスであり、超高齢者、百寿者においてなお同様の関連が認められるかは明らかにされていません。

このような課題に対し本研究では睡眠障害と循環器系疾患が百歳者においてもなお関連があるかを検討することが可能であり、多変量ロジスティック回帰分析の結果、高血圧既往と入眠障害との間に有意な正の関連を認めました(オッズ比: 1.73、 95%CI: 1.07-2.79)。

百歳者の睡眠障害型別有症率では、入眠障害(DIS)が24.9%と最も多く百歳者の4人に1人、次いで早朝覚醒(EMA)16.2%、熟眠障害(SIS)13.2%の順でありました。ライフスタイルとの関連では、家庭内ではほぼ不自由なく動き活動する、隣近所にはひとりで出かけ社会的接触を多く持つなど、日常生活活動度の高い高齢者ほど入眠障害が少なく、睡眠に影響する因子にアクティブなライフスタイルが関与していることが我々の研究で明らかになっています。

ライフスタイル調整による睡眠改善

生体リズム研究の分野では、高照度光や社会的接触、食事や運動などが生体リズムの同調因子となっていること、これら同調因子の強化が認知症高齢者の睡眠・覚醒リズム障害を改善することが大川ら(1993)によって報告されています。

一般の高齢者においても、これらの同調因子の強化が生体リズムの機能を上昇させ、夜間睡眠の質的改善をもたらし、日中の覚醒機能を上昇させる可能性が示唆されています。高齢期では、退職などによる社会的接触の減少や、加齢による行動体力低下に伴う身体活動総量の減少がみられ、これらは夜間睡眠の質的低下をもたらす日中の仮眠を増加させる要因と考えられています。

こうした中、日中の適正な覚醒維持を主眼に、そのアプローチのひとつとして適切なタイミングでの身体活動(軽運動)、短時間の昼寝を取得する時間生物学的手法を用いたライフスタイル介入研究が効果をあげたことが田中秀樹ら(2001)によって報告されています。

不眠の地域高齢者を対象に、昼食後の短時間昼寝および夕方の軽運動指導による4週間の生活指導介入を実施した結果、就床前にかけての居眠りが減少し、夜間睡眠が質的に改善することや精神健康(GHQ)の改善が認められています。ここでの身体活動はその運動生理的効用と同時に、適切なタイミングに取得することでの日中の覚醒維持、居眠りを防ぐ役割に寄与しているといえます。

高齢期では、睡眠に問題があるとしても他疾患の治療薬との併用、副作用の問題などから睡眠薬投与が困難な場合も多いものです。よって、日常でのライフスタイル調整技術、睡眠環境の整備など睡眠衛生の改善法が有効であることが示唆されています。前述のライフスタイル介入研究は、1998年より国立精神神経センター老人精神保健部、琉球大学(平良、荒川ら)と沖縄県佐敷町(現、南城市)をフィールドとした我が国初の睡眠保健の官学共同事業で行われました。町の統計では、ピーク時11億円近い老人医療費が、睡眠健康教室がスタートした平成10年度以降最大で2億円減少するなど一定の成果を挙げた試みでありました。

高齢者の運動と睡眠

若年者では体温が最高値近傍に位置する夕刻遅く(個人差、性差により多少変化)の運動が、夜間睡眠に好影響を及ぼすことが報告され、一方、高齢者では体温リズムの位相前進が見られ、最適な運動実施の時間帯は夕方頃が良い可能性が推測されています。

体温リズムの見地による適切なタイミングを考慮した運動の睡眠に対する効果検証が幾つかなされています。高齢者に適した運動処方としては、Kingら(1997)は中等度の有酸素系運動で寝つきや睡眠の質的改善があることを報告しています。近年、筆者ら研究グループでは水の持つ特性、すなわち浮力、水圧、抵抗、温冷刺激が効果的に作用する温浴による水中運動の中でも、さらに淡水を上回る海水浮力抵抗、粘性や成分特性を生かす海洋水中運動療法を高齢者の睡眠健康法に応用した研究を進めています。

地域の不眠高齢者を対象に、無作為化比較割付試験(RCT)を採用し、温浴による海水運動グループ、ミニデイサービスグループ(軽レクリエーション)に分け、海水運動はアクアストレッチ、水中ダンベル、水中歩行を含む有酸素系運動をベースとした高齢者向けメニューを開発し、週3回、10週間実施した結果、温浴の海水運動グループで中途覚醒は有意に減少、睡眠効率も有意な向上が認められました。現在、地域高齢者はもとより旅行で訪れたシニアも体験できるヘルスツーリズムのプログラムとして地域と共同し、対人接触、交流の機会をひろげる機会、地域資源、地域の生活スタイルを活かした介護予防、高齢期QOL向上の試みの一環として取り組んでいます。

健康長寿の知恵に触れる旅で長寿復権へ

近年、沖縄が長寿から転落していることは報道等でよく知られるようになりました。一方で、厚生労働省発表の都道府県別平均余命(最新は平成22年度)では、沖縄県の75歳以上高齢者は男女とも依然として日本一をキープしています。65歳以上高齢者の平均余命でも男性は第2位に甘んじていますが女性は第1位なのです。
世界一長寿地域を達成した生活様式は高齢世代ではしっかりと受け継がれ、健康資源もそう変わらず「ここに在る」のではないでしょうか?。欧米型食文化に幼少青年期に強くさらされた中年世代、沖縄の伝統的食文化を継承する意識が薄まった若年世代の健康が脅かされ長寿県を転落した沖縄の実態が浮かびあがります。

世界一長寿地域をかつて達成した沖縄長寿者のライフスタイルとして、環境要因、地域資源、受け継がれてきた伝統文化には今でも世界中が注目しています。そこにはウェルネス産業での成功のヒントとチャンスも数多く眠っていると考えられます。
沖縄が長寿であった理由の一つに、薬草・野草、伝承野菜を中心とした沖縄の伝統食、医食同源の思想が挙げられますが、長寿世代が食してきたものは、どのようなものであったかを研究し、現代の忙しい中堅世代のライフスタイルにも組み込める現代版「沖縄健康長寿レシピ」や「沖縄ダイエットプログラム/Okinawan Diet Program」の開発事業にも着手しています。

沖縄の地に息づく健康長寿の資源と長寿者の知恵。かつて世界一を達成した資源に出会う機会を新しい観光を通して提供する。県外や海外の方々はもちろんのこと、沖縄の人々も身近にある価値を再発見し、見直す機会となる、このような旅の提案を構想しています。

糸数太吉夫妻とひ孫

糸数太吉夫妻

糸数太吉さん94歳

糸数太吉さん94歳


  • Arakawa M, Miyake Y, et al. Hypertension and Stroke in Centenarians, Okinawa, Japan. Cerebrovasc Dis 2005; 20: 233-238.
  • Arakawa M. Centenarians Sleep in Okinawa. ASRS Summit and Symposium on Sleep Research and Medicine, Okinawa, 2009.
  • 荒川雅志. 高齢者のライフスタイルと睡眠. アンチエイジング医学, 6(2):38-41 2010
  • Arakawa M, Tanaka H, Comparative Study on Sleep-Health and Lifestyle of Elderly in the Urban Areas and Suburbs of Okinawa. Psychiatry Clin. Neurosci, 56:245-246 2002
  • Tanaka H, Taira K, Arakawa M, et al. Effects of short nap and exercise on elderly people having difficulty in sleeping. Psychiatry Clin.Neurosci. 55:173-174, 2001.
  • 田中秀樹, 荒川雅志,他. 地域における睡眠健康とその支援方法の探索的研究, 生物時計の基礎と臨床. 臨床脳波 , 46:574-581 2004
  • 荒川雅志, 他. ストレッチング、レジスタンス運動を中心とした高齢者向け体操プログラムの開発とその評価. 保健の科学, 46(9):769-774 2004
  • 荒川雅志.沖縄健康長寿ダイエットプログラム, p10-17 沖縄食材図鑑, 有限会社楽園計画 2016

科研費

2007 – 2009 , 百歳超高齢者の身体的、体力医学的特性と健康に関する研究 , 若手研究(B) 研究代表者:荒川雅志
2006 – 2008 , 沖縄における百歳長寿者の認知機能、体力医学的評価および生命予後に関する研究 , 基盤研究(B) 分担研究者:荒川雅志
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