旅と健康の科学-次代のヘルスケア産業の創造

海洋深層水のエビデンス Evidence for Deep Sea Water

  • HOME »
  • 海洋深層水のエビデンス Evidence for Deep Sea Water

海洋深層水のエビデンス Evidence for Deep Sea Water

国立大学法人琉球大学大学院観光科学研究科
教授 荒川 雅志

海洋深層水の健康データベース構築

海洋深層水の資源的価値については、これまで農水産利用分野、新エネルギー分野に関する研究とその利用価値の実用化が中心である。健康利用価値について、海洋深層水の健康効果に特化した医科学的研究をまとめたデータベースはこれまでに世界的に存在しない。

琉球大学ウェルネス研究分野では、海洋深層水の健康効果に関する学術基盤整備として、世界医学系文献データベースPub Med(収録雑誌数約5,000誌、収録文献数約2,000万件)を基に、海洋深層水に関する健康エビデンスを網羅収集、整理し、エビデンステーブルを構築した。

世界医学系文献データベースであるPub Med(収録雑誌数約5,000誌、収録文献数約2,000万件)に研究スタッフ、疫学研究者が複数名でアクセスし、当該テーマの健康エビデンスの有無を確認、収集整理する作業(エビデンステーブル作成)をおこなった。

海洋深層水に関する健康エビデンス情報収集のために行なった手続きとその結果(件数)を図1に示す。収集対象は医学領域のエビデンス上位で(エビデンスレベルⅠb)、効果評価にあたり「無作為」「対照」群を設定して検証を図る方法論である無作為割り付け比較試験(Randomized Controlled Trial; RCT)の有無とその件数について、医学系文献データベースシステム(Pub Med)による検索作業をおこなった。
除外基準として以下、

  1. ヒト対象ではない論文(4,176件/4,393件中)
  2. 共通言語としての英文を対象とし、これ以外の論文(12件/217件中)
  3. 臨床実験でない研究論文(201件/205件中)
  4. 無作為化・比較対照群を置かない研究論文(4件/205件中)
  5. 複数の疫学研究者による全文精読の結果、海洋深層水が中心となっていない検証・健康効果を検証していない論文(3件/4件中)

を、段階的に除外する方法を採用した。ここでいう健康効果とは、「疾患の改善」、「疾患予防効果」、「広く健康増進にかかわる効果」を検証した文献である。
海洋深層水の健康エビデンス情報収集の結果、医科学的方法論を採用して評価された海洋深層水の健康エビデンスは、非常に数が少なく、RCTに該当する研究論文は1本のみとなった。

図1.海洋深層水の文献データベースレビュー手続き

第一段階健康エビデンス情報収集の結果に加え、検索キーワードでヒットする研究に漏れのないよう、海洋深層水を意味するキーワードをより多く集めた。
「海洋深層水」に対応する英単語として一般的に使用されているのは”Deep Sea Water”であるが、日本語では単に「海洋」を指す単語でも英語においては、Sea/Ocean/Marineが対応する。「海」に対応する英単語には、Ocean(大洋)やSea(より陸地に近い海)のほか、海全体を示すMarineがあり、これらは本研究の検索キーワードである「海洋深層水」の”海洋”に対応すると考えられる。また、海水をとってもSea Water或いはSeawaterの両方が考えられる。

表1に海洋深層水に関するキーワードのリストを示す。また、海ではないものの、英語表記ではseaを使っている固有名詞も存在する。(ex. the Sea of Galilee:ガリラヤ湖、the Dead Sea:死海、the Caspian Sea:カスピ海、the Black Sea:黒海など)。
本研究ではこのようなキーワードは除外した。ここで集めたキーワードを表2に示す。また、検索するキーワードを追加し、図1のような手続きを全キーワードで行なった結果が表3である。
第二段階健康エビデンス情報収集の結果、「Deep Sea Water」1本(第一段階と同論文)、「Deep Seawater」で1本だったが、それらは重複していた。

表1.海洋深層水に関するキーワードリスト

  • Deep Sea Water/Deep Ocean Water/Deep Marine Water
  • Deep-Sea Water/Deep-Ocean Water/Deep-Marine Water
  • Deep Seawater/DeepOcean Water/DeepMarine Water
  • Sea Deep Water/Ocean Deep Water/MarineDeep Water

表2.海洋深層水に関する情報収集第二段階

※横にスクロールすると表の続きがご確認いただけます→

Keyword Original Human English Clinical Trial RCT Not Keyword
Deep Sea Water 4393 217 205 4 4 1
Deep-Sea Water 1373 48 43 0 0
Deep Seawater 3193 167 161 3 3 1
Sea Deep Water 2261 99 92 2 2 0
Deep Ocean Water 1552 56 53 0 0
Deep-Ocean Water 325 16 15 0 0
DeepOcean Water 1552 56 53 0 0
Ocean Deep Water 1552 56 53 0 0
Deep Marine Water 1907 102 99 0 0
Deep-Marine Water 2160 109 106 0 0
DeepMarine Water 1907 102 99 0 0
MarineDeep Water 1907 102 99 0 0

これまでの第一、第二段階の結果を受け、RCTの件数がわずかであること、および、手続き③(臨床実験でない論文の除外)で研究論文数が激減することが分かった。
そこで全キーワードに対し、手続き②(ヒトを対象とする研究以外の論文を除外)の時点から、文献を入手し、疫学研究者らの精読により、検索キーワードごとの件数をまとめた。結果、論文数は79件であった。

表3.海洋深層水に関する情報収集第三段階

※横にスクロールすると表の続きがご確認いただけます→

Keyword Original Human Not Keyword
Deep Sea Water 4393 217 18
Deep-Sea Water 1373 48 5
Deep Seawater 3193 167 14
Sea Deep Water 2261 99 9
Deep Ocean Water 1552 56 6
Deep-Ocean Water 325 16 4
DeepOcean Water 1552 56 5
Ocean Deep Water 1552 56 5
Deep Marine Water 1907 102 2
Deep-Marine Water 2160 109 6
DeepMarine Water 1907 102 2
MarineDeep Water 1907 102 3

さらに、各検索キーワードでヒットした論文(79件)で重複を省いてカウントした結果、「健康効果」についての論文は19件となった。論文タイトル・著者・書誌情報を一覧にしたのが表4である。

表4.海洋深層水に関する情報収集第三段階絞り込み文献データ

Regulatory mechanism of mineral-balanced deep sea water on hypocholesterolemic effects in HepG2 hepatic cells.
Lee KS, Kwon YS, Kim S, Moon DS, Kim HJ, Nam KS.
Biomed Pharmacother. 2017 Feb;86:405-413. doi: 10.1016/j.biopha.2016.12.046. Epub 2016 Dec 21.
PMID:28012395
The impact of post-exercise hydration with deep-ocean mineral water on rehydration and exercise performance.
Keen DA, Constantopoulos E, Konhilas JP.
J Int Soc Sports Nutr. 2016 Apr 16;13:17. doi: 10.1186/s12970-016-0129-8. eCollection 2016.
PMID:27087798
The advantages of deep ocean water for the development of functional fermentation food.
Lee CL.
Appl Microbiol Biotechnol. 2015 Mar;99(6):2523-31. doi: 10.1007/s00253-015-6430-7. Epub 2015 Feb 8. Review.
PMID:25661817
Protective effects of deep sea water against doxorubicin‑induced cardiotoxicity in H9c2 cardiac muscle cells.
Lee DH, Kim S, Nam KS.
Int J Oncol. 2014 Dec;45(6):2569-75. doi: 10.3892/ijo.2014.2666. Epub 2014 Sep 22.
PMID:25270851
Antrodia camphorata-fermented product cultured in deep ocean water has more liver protection against thioacetamide-induced fibrosis.
Wang LC, Kuo IU, Tsai TY, Lee CL.
Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Dec;97(23):9955-67. doi: 10.1007/s00253-013-5214-1. Epub 2013 Sep 24.
PMID:24061418
Modulation of lipid metabolism by deep-sea water in cultured human liver (HepG2) cells.
He S, Hao J, Peng W, Qiu P, Li C, Guan H.
Mar Biotechnol (NY). 2014 Apr;16(2):219-29. doi: 10.1007/s10126-013-9540-1. Epub 2013 Sep 24.
PMID:24057172
Mineral-enriched deep-sea water inhibits the metastatic potential of human breast cancer cell lines.
Kim S, Chun SY, Lee DH, Lee KS, Nam KS.
Int J Oncol. 2013 Nov;43(5):1691-700. doi: 10.3892/ijo.2013.2089. Epub 2013 Sep 4.
PMID:24008507
Enhanced hypolipidemic effect and safety of red mold dioscorea cultured in deep ocean water.
Lee CL, Kung YH, Wang JJ, Lung TY, Pan TM.
J Agric Food Chem. 2011 Aug 10;59(15):8199-207. doi: 10.1021/jf201948v. Epub 2011 Jul 15.
PMID:21732592
Dietary deep seawater and hepatic steatosis.
Chi CW.
J Chin Med Assoc. 2013 Mar;76(3):121-2. doi: 10.1016/j.jcma.2013.01.013. Epub 2013 Feb 27. No abstract available.
PMID:23497962
10 Drinking deep seawater decreases serum total and low-density lipoprotein-cholesterol in hypercholesterolemic subjects.
Fu ZY, Yang FL, Hsu HW, Lu YF.
J Med Food. 2012 Jun;15(6):535-41. doi: 10.1089/jmf.2011.2007. Epub 2012 Mar 16.
PMID:22424458
11 Induction of apoptosis and cell cycle arrest by Bis (2-ethylhexyl) phthalate produced by marine Bacillus pumilus MB 40.
Moushumi Priya A, Jayachandran S.
Chem Biol Interact. 2012 Jan 25;195(2):133-43. doi: 10.1016/j.cbi.2011.11.005. Epub 2011 Dec 3.
PMID:22155658
12 Enhancement of immune activation activities of Spirulina maxima grown in deep-sea water.
Choi WY, Kang DH, Lee HY.
Int J Mol Sci. 2013 Jun 6;14(6):12205-21. doi: 10.3390/ijms140612205.
PMID:23743830
13 Trace elements and stable isotope ratios (delta(13)C and delta(15)N) in fish from deep-waters of the Sulu Sea and the Celebes Sea.
Asante KA, Agusa T, Kubota R, Mochizuki H, Ramu K, Nishida S, Ohta S, Yeh HM, Subramanian A, Tanabe S.
Mar Pollut Bull. 2010 Sep;60(9):1560-70. doi: 10.1016/j.marpolbul.2010.04.011. Epub 2010 May 18.
PMID:20483434
14 Kahalalide F induces necrosis-like cell death that involves depletion of ErbB3 and inhibition of Akt signaling.
Janmaat ML, Rodriguez JA, Jimeno J, Kruyt FA, Giaccone G.
Mol Pharmacol. 2005 Aug;68(2):502-10. Epub 2005 May 20.
PMID:15908515
15 Clinical observation: Beau’s lines on fingernails after deep saturation dives.
Schwartz H. Undersea Hyperb Med. 2006 Jan-Feb;33(1):5-10.
PMID:16602251
16 Drinking deep-sea water restores mineral imbalance in atopic eczema/dermatitis syndrome.
Hataguchi Y, Tai H, Nakajima H, Kimata H.
Eur J Clin Nutr. 2005 Sep;59(9):1093-6.
PMID:16015263
17 Changes in plasma lactate and pyruvate concentrations after taking a bath in hot deep seawater.
Tsuchiya Y, Shimizu T, Tazawa T, Shibuya N, Nakamura K, Yamamoto M.
Tohoku J Exp Med. 2003 Dec;201(4):201-11.
PMID:14690012
18 Improvement of skin symptoms and mineral imbalance by drinking deep sea water in patients with atopic eczema/dermatitis syndrome (AEDS).
Kimata H, Tai H, Nakagawa K, Yokoyama Y, Nakajima H, Ikegami Y.
Acta Medica (Hradec Kralove). 2002;45(2):83-4.
PMID:12325458
19 Mercury as a global pollutant: sources, pathways, and effects.
Driscoll CT, Mason RP, Chan HM, Jacob DJ, Pirrone N.
Environ Sci Technol. 2013 May 21;47(10):4967-83. doi: 10.1021/es305071v. Epub 2013 May 3.
PMID:23590191

期待される効果

海洋深層水文献情報の翻訳・アーカイブ化

海洋深層水エビデンステーブルの完成は世界でこれまでにないものである。
収集整理した文献情報を一般に広く共有でき2次3次的に利活用促進し新たな産業展開に資するための翻訳の実施、アーカイブ化を実施することが望まれる。

*同エビデンステーブルの日本語翻訳は完成しました。当資料閲覧を希望される方は当ウェルネス研究分野にお問い合わせください(お問い合わせフォームより)

新分野研究ネットワーク・新産業ネットワーク構築

沖縄ハワイの共通の地域特性である「海」「海洋資源」の潜在力を活かした「ウェルネス産業」の新たな研究開発の基盤整備

地域健康向上、健康長寿の復権

海洋健康データベースはハワイ沖縄双方の地域保健、医療費抑制手法の基礎資料となる。ハワイでも進行する生活習慣病改善や、沖縄の健康長寿復権へ寄与

沖縄観光の高度化

量的観光から質的観光、高付加価値型観光への脱皮が迫られる沖縄において、海洋ウェルネスツーリズムという差別化と競争力のあるツーリズムを生む起点となる。沖縄観光の多様化と高度化に寄与

沖縄・ハワイの海洋資源

沖縄、ハワイはいずれも亜熱帯海洋性気候に属し、四方を海に囲まれた島嶼の豊かな海洋自然に恵まれている。海と共生してきた歴史文化を育み、現代においては海洋水産資源の利活用、海洋自然エネルギー開発、また海洋レジャー・アクティビティを中心としたリゾート観光振興に両地域とも力を入れている点で類似している。
こうしたなか、日本およびハワイが優位に提供しうる価値のひとつには、島嶼環境、海洋自然の健康医療およびウェルネス資源としての利活用、海洋ウェルネス産業化が考えられる。

ハワイ

海の直接利用と産業化を進めている機関に米国ハワイ島の州立自然エネルギー研究所がある(Natural Energy Laboratory of Hawaii Authority;NELHA)。海洋深層水の本格的な実験と事業利用恒久施設の第1 号として、取水量は世界第1位を誇る施設である。温度差発電、太陽光発電冷却水としての自然エネルギー研究分野では世界有数の研究開発機関であり、海洋深層水の特定である低温安定性、清浄性、富栄養性を利用した養殖事業も見られる。

ウェルネス産業に関連するものでは、海洋深層水として世界で初めてFDA(米国連邦食品医薬品局)より製造と販売の許認可を受けたミネラルウォーター事業等があるが、自然エネルギー研究開発を主軸と位置づける同研究所により、ウェルネスの視点からの踏み込んだ研究開発、発信への取り組みは活発ではない。

沖縄

沖縄で進む海水のウェルネス利活用状況では、県内に3箇所の海洋温浴施設として「かりゆしカンナタラソラグーナ」(宜野座村)、「ザ・テラスクラブアットブセナ」(名護市)、「バーデハウス久米島」(久米島町)がある。なかでもバーデハウス久米島がある沖縄県海洋深層水研究所は、国内第1位、世界第2位の海洋深層水取水量を誇り、低温安定性、清浄性、富栄養性を利用した水産物の養殖、農業養液栽培、化粧品などの商品開発が盛んである。

近年の重点的施策は、2013年度から実証運転を開始した海洋温度差発電の事業化である。健康福祉分野の応用には、過去に単年度として同施設を利用した町民の地域健康事業、介護予防事業に行政が取り組んだことはあるが、医療費削減など継続的な健康利用価値への取り組みや、海洋深層水の健康効果に関する医科学的研究をまとめたデータベースはこれまでにない。海洋深層水のウェルネス産業の民間力の呼び込みはまだ十分ではない。

沖縄側の動き

沖縄で唯一海洋深層水施設が存在する久米島町においては、沖縄離島活性化推進事業(内閣府)のもとで「久米島海洋深層水ウェルネスプログラム開発研究事業」が着手されている。久米島海洋深層水の健康価値可視化をめざし、世界初の海洋深層水温浴施設『バーデハウス久米島』の利用促進の一環に、海洋深層水のエビデンス獲得により市場開拓が期待できる分野として

  1. 介護予防分野(含むメタボリックシンドローム改善)
  2. 美容分野(含む抗加齢)
  3. 疲労回復分野(含むストレス軽減、癒し、スポーツパフォーマンス)

という健康三大市場を戦略的取組みに位置づけて、平成29年度は3つのモニター検証をおこなった。
世界初の海洋深層水温浴施設であることを活かしたPRがとられていないこれまでの現状から、今後はエビデンスを活用し、世界第1位と世界2位のハワイ沖縄のウェルネスを強調した取り組みを加速し、海洋深層水の健康資源としての価値創出と可視化を図ることが期待される(図2)。

図2.本研究事業の進展による産業振興、雇用創出、自立型経済発展への期待

出典・謝辞

本稿は「沖縄ハワイ海洋ウェルネス産業交流国際拠点形成に関する共同研究」(研究代表者:荒川雅志、平成29年度沖縄ハワイ協力推進事業(沖縄県科学技術振興センター))報告書、および平成29年度沖縄離島活性化推進事業「久米島海洋ウェルネスプログラム開発事業」報告書(受託:琉球大学大学院観光科学研究科ウェルネス研究分野)を一部改編したものである。海洋深層水資料収集に際し玉城円美氏(琉球大学大学院観光科学研究科荒川研究室)の協力に感謝する。

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
共同研究・連携先

当プロジェクトでは、150社以上の企業・団体と共同研究・連携をさせていただいております。
企業・団体 関連リンク
共同研究・受託研究
共同研究員募集

大学院生・研究生募集

日本レジャー・レクリエーション学会 第47回学会大会

PAGETOP